「原子理論の社会史:ゾンマーフェルトとその学派を巡って」(M.エッケルト著、金子昌嗣訳:海鳴社)

原著は20年前に書かれたものだが翻訳が今年出た。偉大な教師としてハイゼンベルク、パウリ、ベーテ等を育て、前期量子論の主役だった人の評伝。彼の学問そのものをもう少し掘り下げて欲しかった気もするが、学派の興亡についてよく書かれている。ゾンマーフェルトの最大の悲劇はノーベル賞を取れなかった事ではなく、自らの後継者にハイゼンベルクを望みながら全く無名でかつ理論物理学者でもなく、ナチの党員で航空工学や流体力学で若干の業績があるだけの無名のミューラーなる人物になってしまった事だろう。