「フラクタリスト-マンデルブロ自伝-」(B. B. マンデルブロ著、田沢恭子訳:早川書房)

フラクタルの提唱者のマンデルブロの自伝である。評者の研究の出発点がフラクタルにあっただけに、その開祖の興味深い評伝。ポーランドユダヤ人でありながらフランスで教育を受け、戦争に翻弄された前半生。またオーソドックスな数学を極める力がありながら敢えて研究者群とは一線を画し、学際的な新しい研究対象に邁進した後半生の何れも興味深い。評者が、彼のナイーブな扱いを批判的に捉えて、未だにオーソドックスな物理の文脈でフラクタル的な物理を追及している事からもその影響は大きい。(個人的には日本賞を取った折に皇后陛下と通訳抜きで語った場面が微笑ましい。私も招待されたが、行かなかったのが残念。)