「歴史人口学の世界」

速水融著(岩波現代文庫2012)。本書は元々1997年に岩波セミナーブックの一冊として発刊されており、現代から見ると些か古い本かもしれない。しかしながら、江戸時代の日本の人口の推移を丹念に追って分析した本書は、人口減少による「地方消滅」が話題になった今年に取り上げるに相応しい古典と言えよう。特に興味深いのは江戸時代から、都市墓場説、即ち都市が発達すればするほど、或いは都市人口が増加すればするほど、その地域の人口が減る傾向が見られるという点である。この事実は、江戸時代の都市が十分に衛生的ではなく疾病や災害に弱かった点もあるが、働き手の男女比のアンバランスや未婚率の高さ、更に都市に壮年層を吸い取られる近郊の人口減少がトータルに見てマイナスに働く点は現代にも共通するものがある。