「フェルメールになれなかった男:20世紀最大の贋作事件」

フランク・ウイン著、小林頼子/池田みゆき訳(ちくま文庫、2014)。今年はSTAP細胞や佐村河内騒動等の捏造・贋作の問題が例年以上にクローズアップされる年であった。過去にも贋作や捏造の事件は数知れずあったが、本書では美術史上でも最悪の贋作事件の一つであるハン・ファン・メーヘレンによりフェルメールの贋作事件の顛末を描いている。ハンによる贋作は現代から見ればそれほどのレベルではないかもしれないが、高名な評論家の絶賛、贋作をフェルメールの未発見の作品としてセンセーショナルに伝えたマスコミ、更にゲーリングの購入等を通してその作品は美術業界には良く知られていた。ドイツの敗戦後、ナチへの協力容疑で逮捕されたハンが自ら贋作を告白し、自ら贋作の手順をデモした公判を通して贋作の一部始終が明らかになっていった。仮にハンが逮捕されていなかったら単に贋作の噂だけが飛び交っていただけなのだろうか。