「雪と氷の科学者・中谷宇吉郎」

東晃著(北大図書刊行会, 1997)。人工雪の研究等で良く知られた中谷の弟子による評伝。この本は新しい本ではないが、小学生時代に中谷の「科学の方法」に強く影響を受けた評者にとっても新鮮な題材が散りばめられていた。特にこれまで余り焦点が当たっていなかった中谷の戦時研究でもある飛行機の着氷の研究や、評者の研究分野にも近い北海道特有の凍土の研究の紹介は現代性もあって興味深い。また宇宙線の研究者として知られ、父の同僚でもあった関戸弥太郎が中谷の一番弟子と言って良い存在であり、北大の「人工雪誕生の地」の石碑の字が関戸によるとは迂闊にも知らなかった。中谷は寺田寅彦の弟子であり、その王道とも言うべき雪氷の物理を研究しながら、坂田昌一等による「小屋掛け物理」との批判を乗り越え、世界的にも大きな足跡を残したと言えよう。