French-Japanese meeting on Jamming, Glasses and Phase transitions

Institut Henri Poincare in Paris
December 7-10, 2011


この日仏セミナーは遥か昔、おそらく20世紀にスピングラスの実験で有名な都先生等のご尽力で始まったと伝え聞いている。私の参加は2005年のパリの会議からであり、2008年の京都を経て6年ぶりにパリに戻ってきた。2005年の会議ではSherringtonをはじめ何人かの非フランス在住者もいたが、今回は翌週にUCGP Vが開催されたこともあり完全に日仏に限られたようである。(尤も初日にParisiが覗きに来ていたので厳密な話ではない)。日本からの参加者は発表18人、その他聴きに来た人が少なくとも4人はいて、20人強であった。一方フランスからの参加者は発表はほぼ同数ながら総計30人を超える聴衆がおり、総計50-60人の参加者であった。2005年同様、ポアンカレ研究所の小さい講堂を使ったのだが、面喰ったのはプログラムも含めて何も配布物がなく、参加者リストが把握できていない点である。


日本からの参加者が一応、粉体の研究者や実験の研究者も含んでいたのに比べて、フランス側の発表者はOlivierDauchotを除き、全て理論の研究者であり、また粉体や化学物理の研究者がほぼおらず、殆どの研究者がスピングラスを昔研究していて、今はその解析手法を応用し、ランダム系の非平衡ダイナミックスを平衡系の相転移とという手法に焼き直して理解するというスタイルを取っていた。従って日本でも研究者に馴染みのあるレプリカ法やp-spin modelはもとより、point-to-sets correlationとかcavity法とかが盛んに用いられMDの研究者ですらそうした解析を使っている事が印象的であった。近年のフランス発の論文は著者数が増加傾向にあり、またイタリア人が多く、Parisiの影響が甚大である。従ってParisiのご託宣を含めてconjectureが提出されるとそれをチームプレーで短期間に質の高い研究論文に仕上げるスタイルが確立していると聞いている。その結果、今回の日仏セミナーのフランス側の発表は驚く程、一様であり、同じような研究発表が並んでいる印象があった。


その中で独特だったのはJorge Kurchanの発表であり、そこではHatano-Sasaをより一般的な形に再定式化をし、active matterを含めた様々な系に適用可能なものに書き換えようと云う発表が多くの注目を集めた。勿論、本人が認識しているように未だ恒等式の書き換えなので、それはそれとして、有用な情報をどう抽出するかについては今後にもうひとひねりが必要であろう。また個人的には極めて若くjammingのレプリカ理論の著者の一人でもあるJacquinが変分法とレプリカ理論をそれぞれ使ってMCTと同じレベルの計算をかなり簡略化して求める事が出来る事をデモしていたのが印象に残っている。彼と議論した際に、この手の計算には超対称性を利用するとかなり有効であるとの事であった。


フランス人の発表がやや多様性を欠いたのに比べて日本人の発表はある意味多彩で、多様性があった。勿論、発表はしなくてもその論文が注目すべき対象になる、波多野氏、佐々氏の貢献は大きいが、彼等は全く対照的な発表をしていたのも印象的である。また理論研究ではソフトマター的な考え方の有効性を説いた古川氏の発表や、ジャミングとガラス転移を統一的に捉えようとした宮崎氏の発表は注目を集めた。また、ユニークな視点にも届く福島氏のロッドの相転移や余り多くない実験家の諸氏がきれいにデータ解析を行っていたのもインパクトがあった。


全般に日本人参加者は宮崎氏を除いておとなしく、講演後の議論はフランス人が主導していた印象がある。フランスにおける国際的な研究者ネットワークと云う意味では吉野、宮崎、佐々の諸氏が日本人研究者の中では突出していたように思う。