Unifying Concepts in Glassy Physics V

Institut Henri Poincare in Paris
December 12-16, 2011


UCGPは第一回をトリエステで行ったのを皮切りに前回(2008年)が京都、今回が5回目となった。前週の日仏セミナーとは異なり世界各国から錚々たるメンバーが集まり登録参加者も120名以上とぐっと大きな会議になった。また会議ではノートパッドとネームタグ、それから口頭講演のプログラム等が配布され、一応会議らしい体裁が整っていた。


 それでも前回が200名程度の参加者であり、今回がガラス研究の中心であるフランスで開催されたのにも拘わらず参加者が激減したことになり、そのことに戸惑いを見せる参加者も少なからずいた。実際、日仏セミナー同様、殆どがParisiグループの影響の強い理論的研究者の発表が多く、実験の発表は驚く程少なかった。また日仏セミナーで発表しなかったフランス人の発表も多い一方で、ポスターセッションのリストはなく、場所とやり方についても会議当日にアナウンスがあり、申し込み者の多くは実際にポスターを掲示せずに終わった。ポスターセッションの発表者は、その軽い取り扱いに不満を覚えたかもしれない。


 実は前週の日仏で発表した日本人18名のうち、UCGPに残ったのはフランス在住の2人を含めて10人程度であった。しかし登録参加者だけで25名を数え、かなり多くの参加者がこの週だけに新たに参加した。その新規参加者の少なからぬ人達はニューラルネットを含めてスピングラス理論を日常的に使う人達であった。何れにせよ日本人の参加者は多く、会場で目立った。


 前週に引き続き、割と多くがParisiの影響が強いフランスグループの似たような理論講演であったが、印象に残ったのは寧ろそうではない講演であった。Glotzerのマニアックな準結晶ダイマー模型に基づく多面体充填の分類と研究は印象が強かった。また西森秀俊氏の長距離引力系での負の非熱(それ自体は宇宙物理で良く知られているが)と、それに関連したカノニカルアンサンブルとミクロカノニカルアンサンブルの質的な違いについての研究は聴衆をうならせた。また私も一枚噛んでいるSzamelのMCTを超えてオーソドックスに多重ループ迄進めた計算はMCT転移を消すと云う点でParisiを含めて多くの専門家が注目を集めた。またJammingの提唱者であるA. Liuのきれいにまとまった発表は多くの議論があった。佐々氏の128状態モデルの統計力学モデルでガラス状態を特徴付けようとする講演はユニークさで他を圧倒していた。また吉野氏やKeim(それからその点について講演をしなかったSzamel)等の間でのガラス状物質の剛性率の出現は連続転移か不連続転移か、という話題についてはそれぞれが説得力のあるデータを出したために決着は持ち越しになった。


 ここではメインストリームを避けるような講演を挙げてきたが、やはり前週に記したようなメインストリームの共同研究の仕方を含めた研究手法は無視できない。また、ヨーロッパ、特にフランスにいる若手統計物理学者の数が日本のそれより遥かに多く、また優秀な若手が次々と現れる事に強い印象を持たざるを得なかった。しかしながら、同時に余りにも協同的に研究を進めると頭の回転の速さとネットワークの強さが物を云うようになり、辺境にある日本では太刀打ちできない可能性がある。同時に数年で可能な研究テーマは根こそぎやり尽くされて、その路線を後追いしても不毛なだけかもしれない。実験的研究がないがしろにされて、理論的興味を優先させて突っ走っている点も含めて、この分野の将来性に一抹の不安を覚える一面もあった。