その後、
この手の計算(もう一つ未発表のネタがあって、リング状に凝集するモデルもやはり分裂が小さい極限でべき分布になる)を実験的に意味のある文脈で拾ってくれる人を探しつつ、2008年迄は何という事はなく過ぎていった。ところが7年前にSt. Petersburgの会議でAnna Bodrovaが土星の環の構成粒子のサイズ分布の話をして、理論がないと言っていたのでハタと昔の論文を思い出した。彼女に昔の計算を送ると共に彼女の招聘手続きを取り、都合2回彼女は京都に滞在し、また彼女とその指導教員であるNikolai Brilliantovの居るLeicesterにも2週間程滞在した事もある。彼女等とはこの論文を著し、それなりに有益な共同研究を行えた。
そもそも
この論文での貢献は1988年の修士論文を発掘し、著者のチームに教えた事に尽きる。実際、修士論文は4つの原著論文と1つのproceedings論文から成り、その提出後、博士後期課程に進む迄に新ネタに関するもう一つの原著論文を書き上げた。修士の頃は幾らでも論文のネタはあり、幾らでもオリジナルな計算が出来た。今とはえらい違いである。その修士論文の中で未発表の計算内容が今回使われたのである。そのモデルは衝突によって凝集するが、ある確率でバラバラになってしまう、その時のクラスターの定常分布を解析的に求め、分裂確率が小さい極限でべき的なサイズ分布になり、その指数は凝集確率のパラメータによって決まる事を示した。かなり綺麗な結果ではあったが、凝集確率がサイズによらないとした時を少し一般化しただけなのと、(結果として良かったのか悪かったのか分からないが)博士後期課程から大学を移って新しい研究内容にシフトしたためにお蔵入りになった。