田崎秀一さんを悼む

先程、早稲田の田崎秀一さんが亡くなったとの報に接し、呆然としている。田崎さんは学会や研究会にはあまり出席をされないが、統計力学の基礎に通暁しており深い洞察から重要な貢献を行い、同じ分野の信頼できる先輩であった。数年前から体調を崩して入退院を繰り返していたが、体調が回復すれば統計力学分野を盛り立てるキーパーソンとして期待していただけに残念でならない。

 田崎さんは早稲田を卒業し、京大では恒藤研で学位を取った。後輩であった伏木さん曰く、田崎さん程切れる人は見たことがないとのことであった。彼の研究に興味は持ちつつ、僕との接点は意外と乏しかったが、2005年の夏に集中講義にお呼びし、C^*代数に基づく彼の美しい非平衡統計力学の世界に接することに出来たのは素晴らしい体験であった。その集中講義のノートをうちの院生が原稿起こしをし、物性研究に載せる計画があったが、完璧主義者の彼は常に手を加えて遂に完成に至らなかったのは分野のためにも残念でならない。その後、西宮シンポジウムで彼を招待したり、早稲田のセミナーに僕が呼ばれたりして、交流は続いたが、多忙に過ぎたのか2006年あたりに入院をし、それ以来、お会いする機会を逸したままであった。このことは痛恨の極みであり、ご冥福をお祈りしたい。