粉体研究の行く末

波多野さんと御手洗さんをお呼びして議論したことは非常に刺激になった。興奮さめやらずというところである。出来るかどうかは別にして、議論を通していろいろな方向への発展性が見えてきた気がする。「粉体を理解できるか」という無責任かつ挑戦的なフレーズが10年前にあったが、今は理論向けのテーマが見つかり、それに向けて理論、実験、シミュレーションが渾然一体となって進展している印象が強い。

今回の議論で剪断問題に限定しても、1.粉体ガスのきっちりした理論の整備、2.定圧系の現象論と融解理論の関係が今後重要になっていくことであろう。特に後者は応用の観点からも大事である。ここでいう融解は粉体粒子が融けて融合するとか変性するといった話ではない。勿論、今後そういう研究も重要になるのは間違いないが、その段階ではないということである。今、問題にしているのは例えば2次元系で三角格子を組んだ粉体粒子に剪断をかけたときに格子から欠陥が発生して融解するといった類の問題である。もともとNelsonの本などにベアリングの写真が使われていることを思い出せば分かるとおり、融解と粉体系は本来相性がいい。しかし平衡状態がなく温度をどう与えるかが不明、という点がネックになっていて両者を繋げた観点での研究は殆どない。しかしながら定圧剪断系であれば、格子に復元力があり、運動エネルギーも与えられるので、問題設定上の難点が解決でき、非平衡相転移を議論することは可能なのである。

1.の粉体ガスの理論については応用上では気にしなくてもよいということを示したのがSaitoh-Hayakawaの仕事であるが、それだけに何故、phase contractionも長距離相関も、shear系とcooling系の違いも無視した理論がうまくいくのかを明らかにする必要がある。剪断系では流体力学の安定性解析から不安定領域が引き伸ばされているのは見えており、粒子レベルでの長距離相関と無関係に長距離相関が成長しているようにも見える。結局の所、von Noije and Ernstは固有値方程式を解けなかったので自己完結した多体論を展開できなかったが、そこは解析的手法に拘らず固有関数を求めておけばよいというコメントも今回の議論の中ででていた。粉体ガスの剪断系と一様系とは本質的に違うのか否かという点もはっきりさせておく必要がある問題である。