レフェリー

を一つ仕上げて、原稿の手直しをして、書評を書き上げる。手抜きの書評であるが、一々記録を取っていないので何を読んだか忘れてしまった。

1. ディビッド・キーズ「西暦535年の大噴火―人類滅亡の危機をどう切り抜けたか」(文藝春秋社)
2. 高橋正樹「破局噴火―秒読みに入った人類壊滅の日」(祥伝社新書)

上記2冊は何れも大噴火に伴う壊滅的な影響を伝えている。はっきりと記録に残った噴火としてはタンボラ火山の爆発が最も大きいとされているが、2においてはそれより遥かに大きな噴火とそれに伴うカルデラの形成、その壊滅的な影響を伝えている。話の展開もうまく、SF的な近未来ストーリー、喜界や阿蘇姶良等に残るカルデラと日本の破局噴火の実例、そしてそれらを遥かに凌ぐイエローストーンやトバといった巨大噴火の紹介という構成で読み物としても秀逸である。現代において、破局噴火が起こればその影響は計り知れず、危ういバランスの上に成り立っている現代文明はひとたまりもなく崩壊するに違いない。1は535年の噴火とその影響を追っている。その火山爆発の規模はもとより場所も判然としないが、おそらくジャワ島とスマトラ島の間で1883年の大爆発で知られるクラカタルの傍の小島で爆発が起こり、既に海中に没したのであろう。その噴火の影響で寒冷化が進み、その後の豪雨と旱魃により齧歯類の爆発的増加とペストの蔓延が世界各地に大きな影響をもたらした。特に記録がよく保存されているビザンツ帝国ではペストの蔓延に伴う人口の急激な減少と国力の衰微がもたらされている。実に恐るべきは寒冷化である。

3. 伊藤智康「スーパーコンピューターを20万円で創る」(集英社新書)

あっという間に読める本であるが、優れた計算機科学者というばかりでなく、ヤングマガジンの栄光なき天才達の原作者としても知られる著者が、現在世の中を席巻している重力多体系のシミュレーターであるGRAPEを如何に開発したかを舞台裏まで見せた好著。現代において新しい学問がどうやって育っていくかを当事者の目で語っているのが共感を呼ぶ。