みすずの書評

は今日が〆切ということで以下の様に書いた。去年までの担当者からメールは来ていないが、そちらに送った。

ドナルド・キーン著角地幸男訳「明治天皇」(新潮社)
 明治という時代は良く語られるのに明治天皇を語った本は殆ど記憶にない。豊富な資料をもとに詳細にその一生と時代を描いた力作。幕末から明治という時代が如何に変化が早い激動の時代であるかを雄弁に物語っている。また侵略的で強硬な明治外交は決して司馬遼太郎が賞賛するようなものではないことがよくわかる。

Hans Bethe and His Physics, edited by G. Brown and C-H. Lee (World Scientific)
21世紀になっても現役の物理学者であり続けた物理界の巨人の物理の様々な側面を多くの人が語った本。多くの本では過度にLos Alamosでのマンハッタン計画での理論部門のチーフである側面が強調されすぎている嫌いがあるが、この本では抑制の効いた調子で彼の物理界への足跡を分かりやすく紹介している好著。

ユン・チアン、J.ハリディ著土屋京子訳「マオー誰も知らなかった毛沢東
 同じ著者の「ワイルドスワン」から想像できる通り、毛沢東及び共産主義への憎悪が前面に出ており、張作霖爆殺までソ連のスパイの仕業にするなど信用のおけない記述も多い。しかし例えば「文化大革命十年史」等の類書とほぼ同じ記述も多く、当たらずといえど遠からずの記述である。異常な時代と指導者を持った半世紀だったと言える。

立花隆著「天皇と東大」(文藝春秋社)
 明治以降戦前までの日本の変遷を東大及び帝大の国からの干渉に対する敗北史を縦糸に、その天皇神聖化と右傾化を横糸に据えて語った好著。本書は滝川事件一つにしても滝川幸辰が何故、誰によって狙われたかを明らかにしたことで端的に分かる通り深い掘り下げは著者の面目躍如といったところである。同時に多くの事件を連続的に捉えることで日本近代通史としての読み応えもあった。